ヴァーノン・ワトキンズ (Vernon Watkins, 1906-67)



ウェー ルズの詩人。ウェールズ語を話す両親の元にマイステイグ (Maesteg) で生まれ、ケンブリッジ大学マグダ レン・カレッジに学ぶ。生涯のほとんどをスウォンジー (Swansea) で暮らし、銀行員として働く傍ら詩人として活動した。銀行の上司たちは彼を昇進さ せようとしたが、ワトキンズにとっての興味は詩を書く時間を確保することだけだったという。ウェールズ詩人 Dylan Thomas (1914-53) は、生涯の友人としてワトキンズの詩作のアドバイスだけは受け入れた。二人の交流は Dylan Thomas: Letters to Vernon Watkins (1957) に詳しい。


最初の詩集 Ballad of the Mori Lwyd and Other Poems (1941) のタイトル・ポエム "Ballad of the Mari Lwyd" は、ウェールズのフォークロアや神話を元にした長編バラッド詩である。Albert B. Friedman は、この作品を例に挙げて、ワトキンズの最大の特色はバラッド韻律を現代詩に応用した技巧の妙にあるとして、次のように述べている。

'Poems in ballad measure are everywhere in modern verse, but they are often complicated in rime scheme, rhythm, and arrangement beyond folk or vulgar usage. In Vernon Watkins' magical playlet "Ballad of the Mari Lwyd" the traditional rime scheme is varied with cross-rime and even more intricate systems as a means of differentiating the dramatic voices ….' [Albert B. Friedman, The Ballad Revival: Studies in the Influence of Popular on Sophisticated Poetry (Chicago, 1961) 342] 

形 而上的なストーリーとバラッド韻律が不思議な調和をなしており、語り手は、ぼろ靴、杖、ずだ袋を持った求道者。生きているとも死んでいるとも判らぬま ま、学びと愛を探して、三枚のコインが示す運命に身を委ね、現実とも煉獄とも定かでない二つの世界の間を彷徨する。夜明けに投げたコインで畑へ行き、乳搾 りの女に会って「知性」の乾きを知る。昼に投げたコインで川へ行き、沐浴の女に会って「嫉妬」を知る。夜に投げた三つめのコインは海へ行けば裸の少女が 待っていると男を誘うが、海辺で見たのは吹きさらしの犬と砂の詰まった空きビンだけ。知るものは何もなく、辿り着いた場所は最初の場面の海辺へと循環し、 男の彷徨は永遠に続く。'Mystical number'「3」や、コインが光る様を 'I see it glint and burn' と表現する繰り返し、キーツ (John Keats, 1795-1821) の "La Belle Dame sans Merci" (1819) にも似た場所の円環構造と男の苦悶、基本的には弱強四歩格と弱強三歩格が交互に繰り返され、abcbの韻を踏んだバラッド・スタンザが刻む安定感が、この 詩の不明確なトポスと心理の枠となっている。 (H. N.)

原詩(英詩)  
1. Ballad of Crawley Woods  
2. Ballad of Culver’s Hole  
3. Ballad of Hunt’s Bay  
4. Ballad of the Equinox  
5. Ballad of the Mari Lwyd  
6. Ballad of the Rough Sea  
7. Ballad of the Three Coins  
8. Ballad of the Trial of Sodom  
9. Ballad of the Two Tapsters  
10. The Ballad of the Mermaid of Zennor