Sydney2

 
 
 
 
18世紀のイギリス でバラッド詩という新しいタイプの詩が生まれ、以来、今日まで独特のバ ラッド模倣詩が生み出されて来ました。当ホームページ「英国バラッド詩アーカイブ」は、バラッド詩研究の基盤を整備するために、製作者が知りうる限りでの バラッド詩を網羅的に蒐集したものであります。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
開設の目的

 イギリスに「バラッド詩」('literary ballad') と呼べる新しいタイプの詩が生れたのは18世紀に入ってからである。もともと文字を持たない民衆によって中世以来うたい継がれてきた伝承物語歌「バラッ ド」がこの時代に蒐集・印刷されるようになって、民族の遺産としてのバラッドの存在に、そして、その想像力あふれる物語の世界に、多くの詩人たちが注目するようになり、以来、今日まで独特のバラッド模倣詩を数多く生み出してきた。

 伝承バラッドを集大成した Francis James Child 編纂の The English and Scottish Popular Ballads (1882-98) は、今日においてもアメリカの Dover 社から出版されている5巻本で容易に入手できる。以後 Child 版を補足する形で20世紀に入ってもバラッドの蒐集は続けられたが、今日一般的に伝承バラッドに言及する場合、Child 編纂の305篇をキャノンとして利用するのが習わしである。

 一 方、詩人たちによるバラッド詩を網羅的に編集したものは今日まで存在しない。編集作業を困難にしている最大の原因は、300年にわたる詩人たちの作品群からバラッド詩を抽出することそのものの難しさである。それは、そもそも或る作品が伝承バラッドを模倣したものであるかどうかの判断基準が難しいという 根本的な問題があるからである。詩人が伝承バラッドの何を模倣したと指摘できるか。模倣から出発しながら、自立した作品として優れたものになっていればいるほど、ある意味で模倣の痕跡を明瞭な形では留めていない場合も多い。

 依拠すべきアンソロジーが極端に少ないことがバラッド詩研究の障害になっていることは否めない。 換言すれば、「バラッド詩とは何か」を判断する上での基本的材料としてのテキストそのものを我々はまとまった形で持っていないのである。

 以上のことから、ここに開設する「英国バラッド詩アーカイブ」は、18世紀以降の英国詩の中から、製作者が判断しうる限りでのバラッド詩としての可能性のある作品を網羅したものである。